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漆の木が生みだす優しい色で染めた手作りの雑貨

浄法寺漆の原木を利用した染めの技術で、布小物やアクセサリー等の雑貨を福祉施設で製作。絞り染めの模様にもこだわり、自然な風合いでお洒落なデザインが多い。染めの製造工程も見学でき、アットホームな雰囲気で迎えてくれる。
ポトラガーデン
二戸市似鳥字沖野60−1 0195-26-2363
8:00-17:00(土日祝休み)
[取扱先]なにゃーと物産センター、事業所も可
    見学は要予約、日程や人数等は要相談
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取材日 INTERVIEW 2019.1.10 ※施設情報、入荷状況や価格は取材時のものです

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浄法寺漆の原木を用いた、産地ならではの「漆染め」の工房

国産漆の産地、岩手県二戸市浄法寺町にも近い似鳥地区に、就労継続支援B型事業所「ポトラガーデン」はある。「漆」を採取した後の原木を利用し、「漆染め」に挑戦している工房だ。漆染めとは、漆の原木をチップにしたものを煮出した染料で染め、さらに銅や鈴などを溶かした液体で媒染し、化学反応を利用して、色を定着させたり、発色をさせ、布を染める技術。漆の原木が手に入る地域でなければ、できない、産地ならではの「染め」だ。切り倒してから、2年、3年とたった原木を利用するため、染めで、かぶれることもない。


鮮やかな黄色や、落ち着いたナチュラルなグレーの色合いが、美しく、染め方や模様も様々。作品の幅は広く、コースターやランチョンマット、巾着やTシャツ、ストールなどの身につけるものから、ペンケースやクッションなどもある。2018年頃から製作をはじめ、イベントなどでも目を引く存在だ。

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若い人に手に取ってほしい、とスタッフがデザインを試行錯誤

もちろん、優しくナチュラル感のある色合いや浄法寺漆の原木を活用するという珍しさもあるが、そのデザイン性も目を引く理由の1つ。若い人に手に取ってもらいたいと、染めの模様やそれぞれのデザインも、お洒落なものが多い。蝶ネクタイまであるから、驚き。
 

スタッフや利用者に若い世代が多く、その感覚が、個々の商品に生きている。地方に若い世代がいない、というのは耳にタコができる程、聞く上に、実際に手仕事の現場でも高齢化は進んでいる。そんな中で、新たな作り手だ。デザインや商品開発、販売の専門がいない中でも、スタッフが周囲の助けを借り、本や雑誌でも勉強をしながら、日々試行錯誤を続けている。「スタッフ同士でいろいろ話しながらデザインは決めるんですけど、自分たちが欲しいと思わないと売れないかなと思って」。

染めとは別に、漆の原木を粉砕し、それを樹脂で固めたアクセサリーも製作している。

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2018年の11月に行われた二戸の手仕事展での展示ブースも、雑貨屋さんが1日オープンしたかのようなディスプレイ。スタッフやその家族に協力してもらったブースだそうだ。インテリアもイメージに合わせ、全体を上手に見せている。

今までも関係者の人には、応援をしてもらってきたが、この時は特に、一般の人からの反応が良かったという。

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現在は、二戸駅の「なにゃーと物産センター」にて常設コーナーで商品を販売するほか、イベント等へ出店している。常設の販売商品以外にも、商品を見たい場合や、まとめての注文、贈答用などに相談をしたい場合は、事業所でも直接、購入が可能。対応スタッフが不在の場合もあるため、事業所の場合は、先に電話で問い合わせをした方がよいとのこと。
染めの製造工程の見学も受付けている。漆染めの作業を行っていない日もあるため、こちらも日程や対応可能な人数は、要問合せ。

使うのは、漆の原木のチップ。その日の湿度や布の材質によっても色が変わる。

取材日には、染めの工程を見せていただいた。取材対応をしてくださったのは、代表の小軽米健太さん。取材中も、しきりに冗談を飛ばしながら、自身の想いを熱心に語る人柄だ。「10話して1つも得ることないタイプですから。余計なことばっかり」と笑いながら、スタッフとも軽快に言葉を交わすが、比較的新しい組織で新しい事業に挑戦する、というのは、大変なこと。

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模様の種類にもよるが、まず、割りばしや紐、輪ゴムなどを使って、布を縛り、模様をつける。

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それを染料の中へ。漆採取後、一定期間置いた原木をチップ状にしたものを煮出し、染料にする。それで、まずは布を煮て、一度、黄色っぽく布を染める。今度は、銅や鉄、鈴などを溶かした専用の媒染液で煮ると、化学反応が起こり、鮮やかな黄色や、グレー、茶など様々に染まる。その日の気温や湿度、生地の質によって、色は微妙に変化するそうだ。だから、同じ布から仕立てない限り、同じ色の商品は、ほぼない。下手をすると、作っている側が振り回されることもあるが、1つ1つが異なる色合いになるのは、良さの1つととらえている。草木染めを研究している団体とやり取りした際に言われたのは、漆染めは他の草木染めと比べると、色落ちがしにくいそうだ。

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それを乾かし、それぞれの商品に仕立てていく。商品も試行錯誤中だそうで、最近は、大物にもチャレンジしている。暖簾やカーテンもその1つ。

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さらに、この日、挑戦されていたのは、浴衣。既成の浴衣を染めたことは、これまでもあったそうだが、今回は浴衣を自分たちで製作するところから始めていた。試しの布で、まずは型を作っているところ。スタッフさんも「皆で同じところからスタートして、ああでもないこうでもない、色どうする、とかって話をできるのは、楽しいなと思います」という。

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仕事のやりがいや生きがいを持ちつつできる、自分たちの事業が必要だった

代表の小軽米さんが、ポトラガーデンを始めたのが約6年前。就労継続支援B型事業所とは、障害等がある方で、年齢や体力などの理由から、企業等で雇用契約を結んで働くことが困難な方が、軽作業などの就労訓練を行うことができる福祉サービスの事業所のこと。軽作業の内容は、様々だが、他から請け負って行う作業は、工賃が決して高くはなく、限界もある。「それに、ここは仕事のやりがいや生きがいを求めてくるところで、仕事がどういうものかを訓練していくところでもあるので」。通う利用者のためにも、自分たちで事業を生み出していく必要があった。

 

小軽米さん自身は、父親の実家が浄法寺町。自身は、町外で育ったが、社会人になってからは、二戸地域で土木関係の仕事をしていた。祖母が、浄法寺町で民宿をやっていたこともあり、たくさんの漆器は以前から目にしていて、いいものだ、というイメージもあった。ただ、海外にも通じる漆や日本酒の産地であり、他にも地域外に有名な産業のある地域でありながら、もっと地域はよくならないのか、という疑問もあった。その想いが、今の事業に繋がっている。

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海外にも通じるものを作り、いつか利用者さんと海外へ行きたい

やるのであれば、海外にも通じるものにしたい、いつか利用者さんにも、自分たちが作ったものが、海外のこんなところでも使われているんだよと言えるようになりたい。じゃあ、この地域のもので、海外にも通じるものは何だろうと考えたときに、思いついたのが、県内外から注目を浴びていた「漆」だった。それが、2017年。「何か漆に携われることはないだろうか」と、調べていくと、漆の掻きや塗りは、熟練の技術が必要で、作業としては難しい。知ったのが「漆染め」だった。10年程前までは、地元のおばあちゃんが続けていたというが、販路が難しく、それも途絶えており、地元で製品として作っている人は、いなかった。

早速、製法を習うために、漆染めの技術を持つ地域の方へ連絡を取った。その方には、せっかく技術があるから、若い人には伝えていきたかった、と言われたという。けれど、お金になるものでもないので、若い人に伝えるのも、申し訳ないと、積極的に技術を広めることはしていなかったそうだ。まだ、寒いから、春になったらやるよ、と言われたが、先方の都合もあり、すぐに話が進んだわけではなかった。少しずつ、連絡をやり取りし、11月のある日、「今日やるよ」と電話が来た。その日のスタッフと利用者の予定を何とか調整して、製法を習い始め、試行錯誤が始まった。スタッフだけではなく、利用者も一緒に最初から習った。「同じ立ち位置からスタートしたほうがいいと思って。やりがいや生きがい、働くこと、を教えるのがここの目標なので。働くことって何なんのか、働くことっていいな、面白いと思ってほしい」

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原木の活用方法も模索中

「染め」と同じく、採取後の漆の原木に価値をつけたい、と、木工品にも着手している。原木も黄色が美しく、数年置けば、かぶれるものではない。プランターや時計など、何か製品化できないか検討中だ。丸太は、どうしても割れが入るため、技術的な面は、専門家にも聞きながら、模索している。小軽米さんも、この事業を始めるまでは、漆がすごいことは知っていても、一般の人と同じくらいの知識しかなかったという。原木についても勉強も重ねている最中。大変なことも多いが、それでも楽しいそうだ。「自分がこんなでしっかりしていないので(笑)、スタッフと利用者さんがしっかりしてる。大変な時は、スタッフが利用者さんを励まして、利用者さんが俺を励ましてくれる、みたいな」。

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製作を始めてから、約1年がたち、基礎は少しずつ、できてきた。これからは、販売にさらに力を入れていきたいと話す。「大きい話をしておいて、販売はまだまだなので」と話すが、海外という目標も変わることなく、目指している。全国的には染物が数多くあるが、「漆」と言うと足を止めてくれる人もいる。海外の目標を周囲に話していると、情報を流してくれる人もいる。営業は、まだまだこれから。製作の面では、お客さんが欲しがるものを、ちゃんと作っていきたい。

「科学的な根拠はないみたいなんですけど、漆染めを教えてくれたおばあちゃんたちが、漆染めのものを身につけてると、元気がでるんだよ、って教えてくれたんです」。

産地ならではの、漆染め。作り手の、元気までもらえそうな作品たちに、出会う旅を。

取材日 INTERVIEW 2019.1.10 ※施設情報、入荷状況や価格は取材時のものです

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