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昭和レトロな生活雑貨店で本当に使い勝手のよい道具を探す

アルマイトの弁当箱、大しゃもじ、鍋、ランプ、地元の作り手による箒、竹細工…と数えきれないほどの生活雑貨が店内に溢れる。店主が国産や使い勝手にこだわって仕入れた道具の品ぞろえに驚き必須。
平孝商店
一戸町高善寺字野田110-2  0195-33-2101
9:00-19:00 ※11-2月は9:30-18:00 (臨時休業有り、年末年始休み)
http://iwatehirakou.web.fc2.com/

ヒラコウショウテン

取材日 INTERVIEW 2018.12.16 ※施設情報、入荷状況や価格は取材時のものです

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昭和レトロな店内で、ものすごい数と質の生活雑貨が並ぶお店

一戸町にある平孝商店。中に入ると、まずは、陳列棚に圧倒される。たわし、湯飲み、雪かき道具、かんじき、はけ、紐、クリップ、まさかりの柄、おたま、ラップ、キッチンペーパー、鍋、整理整頓用のトレイ、傘、菜箸などのキッチンや家庭用品がエトセトラエトセトラ…。所狭しと商品が並び、思わず手に取ってみたくなるようなものが多い。店舗のちょっとレトロな外見も手伝って、地元の有名店だ。全国区でも、知っている人は知っているとっておきのお店。
ちょっと入りにくいかもしれないが、是非、臆せず。取材当日、取材スタッフも緊張しながら、そろりと中に入ったら、ピンポンと来客チャイムが元気に鳴ってくれた。

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一戸駅から徒歩約2分。車なしの旅でも、便利な立地。駅周辺に昭和の面影を残す街並みが残っており、まち歩きが楽しいエリアだ。駅駐車場には、デザインアートの壁画があったり、他にもレトロな外見のお店や建物が残る。平孝商店は、商店という名前の通り、家庭用品や生活雑貨が主な荒物屋さんだが、品揃えの多さに何屋さんと呼べばよいのかお伺いすると「その質問が一番困るなぁ」と、三代目店主の平野祐二さんは、笑って答えた。カウントもできないので、「ざっと3000種類くらいものがあるって言ってます」。

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最初のお目当ては、地元、一戸町の竹細工のざるやかご。「あんまり知らないと思うんだよね、ここにあるって。でも知っている人は、遠くから来るよ」。町内どこでも竹細工があるというわけではなく、入荷されるものも違う。貴重な取扱店だ。ただ、もともと数は少なく、今年はスズタケが開花し、枯れた影響で今後の入荷は厳しいかもしれないそうだ。

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年間で500本を売り上げる地域の箒

次が、地元や近隣地域の方が作った箒。中には遠方から仕入れたものもあり、店内に様々な種類が並んでいる。普通サイズの箒から、小帚。柄の長さも違い、長いものは職業上、腰痛持ちの多い美容師さんなどに人気がある。堅めの箒は、車内掃除やペットの毛並みを整えるのに便利。掃除機が一番便利と思う方もいるかもしれないが、細かいゴミは箒の方が掃除に便利な職場もあるそうだ。それぞれの箒の、用途が異なる。


取材スタッフが、ふむふむと話を聞いていると、平野さんから逆質問。「1年にどれくらい売れると思う?」。質問されるということは、きっと驚く多いはず…。50本は、少ない?100本くらい?「ざっと年間で500本くらい」。本当に失礼ながら、嘘!と叫んだら、別のスタッフが「50本でも多いと思った」と呟いて、平野さんにさらに笑われた。箒の需要は、深い。県をまたいで来る人も多いのは、箒を扱う店が減ったから。掃いた先から穂先が抜けていくような量産品なら手に入るが、ちゃんとしたものは探すのも難しい。

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一戸町で作られた、箕。

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本当に使えるもの、便利なもの、いい生活道具を売っている

ここからが、平孝商店が全国的にも有名な理由。仕入れている商品のほとんどは、平野さんが「ちゃんと使えるものを」と選んで置いているもの。日本製や国内生産のものがほとんどで、中には既に生産終了した商品もある。日本製だから、という理由で仕入れているわけではなく、あくまで使えるいいものを、と選んだ結果だ。だから、中にはドイツ製やイタリア製のものもある。全国区の雑誌に掲載されたこともあり、九州からきたお客さんが、数時間滞在して段ボールいっぱいに購入していったこともある。取材スタッフも、ついつい皆で興味があるものを探し当てては、本筋の取材そっちのけで、平野さんに話を聞いてしまう。1つ1つに置かれている理由があって、面白い。「(うちで鍋買って)30年以上使ったら壊れたから買いに来た、そんな人も少なくないから、そうそう頻繁には買ってもらえないんですよね」と笑う平野さん。

 

 

昭和レトロなアルマイトのお弁当箱。包装も昔の材質。

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ランプ。部品でのばら売りもされている。全部の部品が、それぞれ国内工場で作られている。

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大きなしゃもじは、ご飯用でもあるが、味噌づくりにも代用で使われる。

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店頭には、バイクも並ぶ。店内の一角にもバイクを見かけるため、思わずご本業かと思いきや、こちらは趣味だそうだ。交通手段の少ない田舎では、バイクは地元のおじちゃんおばちゃん、おじいちゃんおばあちゃんの大事な足。

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さらに、現在の仕事の割合としては、鍵の仕事も多い。バイクの鍵を田んぼに落とした。家の鍵をなくした、明日は朝から仕事なのに。「鍵って本当に困らないと、皆来ないから」、駆け込み寺だ。鍵の付け替えもやっているが、付け替えるはずが、ちょっと調整してみたら、前より調子がよくなって、付け替えが延期になったこともある。「商売が下手なんですよ。でも困っていたことが、ああ、良かったになる(解決した)、っていうことが一番大事」。

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生糸の扱いから、食料品店を経て、荒物屋さん、金物屋さん、

家庭用品を販売するように

平孝商店の歴史を紐解けば、最初は、食料品がメインのお店だったそう。缶のドロップ、ホタテやカニの缶詰、当時はかなり珍しかった乳製品などなど。戦時中の食糧難で食料品の確保が難しくなると、生活必需品は何でも。衣料品や生活雑貨、戦後はいわゆる「荒物屋」さん。その後も金物や家庭用品を扱い、「今は、正直、何屋さんかわかりません(笑)」。
 

本当の本当に大元を辿ると、元は生糸が生業の家系だった。反物を扱っていたのが、途中で何故か食料品店になったらしい。口に入れるものや服飾以外は何でも揃う時代があるという話を聞いたかと思えば、建築資材を取り扱っていて大工さんたちがお客さんだった頃もあるという。まるで映画のように、家業の歴史があふれ出てくる。聞いていると楽しい。昔の一戸町が見える。

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店の作りも、すごい。建てた際に、釘やボルトを1本も使わない伝統的な技術で建てられた。

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地元の製品を取り扱うのは、「フェアトレード」

そんな中で、竹細工など地元の製品を置き始めたのは10年ほど前。昔は竹細工なども関東や遠方によく売れていて、逆に地元では分けてもらえなかった。そのうちに、安い海外製品や代替品が入って、需要が減ってくると、逆に作り手さんからここで売ってもらえないかと言われるようになった。

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箒もかつては、作り手から買い取り、県内外に売って歩いて回る人がいた。次第にそういった人もいなくなると、作った箒は、自家用か、近所の人に譲る程度。でも、地域の作り手は、技術はある、畑もある、毎年できる。地域のおばあちゃんに、ここで扱ってもらえないかと言われたのが始まりだった。

 

委託ではなく、基本的に買取をされている。最初に買い取ろうとしたときは、卸値とはいえ、びっくりするような安さだった。「箒の糸代をもらいたいから」という作り手に、「駄目だよ、そんなに安くちゃ」とある程度の額を渡せば、「そんなにもらえるのか」と言われ、「いやいや、まだ十分じゃないと思うけど」というところから始まった。少しずつ箒が売れるようになってくると、作り手にリクエストもした。もうちょっと小さいのはどうか、柄の長いやつは無理なんだろうか、もう少し緻密に編んでもらえたらもう少し高く買える。そうすれば、作り手のモチベーションもあがる、収入も増える、腕も上がる。いい循環が生まれた。「本人が言っているより高く買うなんて、ないでしょ」と平野さんは笑う。

 

そういうふうに地元製品を扱う理由を聞くと、「フェアトレード」という言葉が返ってきた。フェアトレードは、コーヒー豆やカカオなどの取引でよく使われる言葉。作物や製品を適正な価格で継続的に取引することによって、生産者の持続的な生活向上を支える仕組みのことだ。
「収入があれば、来年の材料がちゃんと買える、作っているときに今まではただもくもくやっていたものを、お菓子買ってちょっとお茶もできる。大事なのはお金とかものじゃなくその先にいる人。ものが安ければいいではなくて、なぜその品物が必要なのか、なぜそれを置いているのか、目に見えない部分をちゃんと考えましょう、ってこと」。

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ものを売る、買うっていうよりは、その先にあるものを見ている

その考え方は、仕入れの商品でも変わらない。仕入れの基本は、「ものを売る、買うっていうよりは、その先にあるものを見ている」という。最終的にその道具で何ができるのか、何をしたいのか、わかるような品揃えにしたいという。例えば、包丁一本取っても、安価なものはある。でも、包丁は切れなきゃ意味がない、毎日使うから長持ちしなきゃいけない。その道具で、最終的には何がしたいのか。その目的を、ちゃんと達成できるものを選んで、仕入れている。平野さんの目利きだ。平野さんのお父さんもお爺さんもここで商売をしてきた。その品ぞろえから学んだ知識と経験は生きている。自分がここで商売をやっているのは二十数年、けれど100年近い経験が、幼い頃から店内を見てきた自分の目を通して、今の自分にある。そこが、ポイントだという。

 

だから、この商品は何だろう、と思って聞くと、簡潔だが、ちゃんと置いている理由が明確にある。このお玉は量産品と違って深く掘られているから、汁物がちゃんとすくえる、大きなしゃもじは、味噌づくりに使える等々。「一時期は便利なものがいいかな、といろんなものを揃えたんだけど、今は逆に人が生きるのと同じで、便利すぎるのもよくない。根本的なことがクリアできていれば、便利すぎるものはいらない。あとは自分で工夫しましょうと。あんまり道具をそろえ過ぎても、それだけで家中いっぱいになっちゃう、って考えるようになりました」。

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決して安売りはしないけれど、かといって都会のセレクトショップのような高い価格でもない。地元や近隣で働いて暮らしている人が、いつもの暮らしの中で買う価格。コレクション性や限定性で、値があがりそうな商品もあるし、実際によそだとビンテージ品で高いものもあるが、ここではそうじゃない。その商品に見合った価格で、使える価格。

どんなお客さんに来てほしいですか、という質問に、「ものの違いがわかる人に来てほしい」と言う。「こんなことを言って大丈夫かな」と笑う平野さんだが、何もお金持ちや生活用品はブランドで揃えて、みたいなお客さんに来てほしいというわけではない。高ければいい、というものでもない。売る側と買う側は対等じゃなきゃいけない。ブランド名1つで価格が跳ね上がったり、販売経路によっても価格が変わる時代。消費者も賢くなる必要がある。ものを買うにも、知識と経験は大事だ。本当に必要なものは何か、見えているか。そういうことが、わかる人、わかろうとする人に来てほしい。「買って、使って、満足してほしい」。

 

「平孝商店」という名前のまま、ここは町の商店だ。欲しいものを求めて、町外からもお客さんが来るし、遠くまで買い物に行けない地元の人が、日用品を買いに来る。

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それでも通販が多い時代、家庭用品の店としての需要は年々減って来る、いいものを仕入れようと思っても難しいこともある。このままの状況で営業を続けていくのは難しい、業態は変えてゆく必要があると、平野さんは言う。どんな商品のことも、面白そうに答えてくれるけれど、商売だから、やっぱり大変なことの方が多い。でも、うちで買った鍋を20年、30年使った人がまた買いに来てくれる。鍵を開けたら大喜びされる。その満足感みたいなのが支えになっている。

 

近隣地域の方は、いつもの日用品や生活道具を、旅先の人も、他ではもう出会えないかもしれない家庭用品を。どこまでも、どこまでも深い平孝商店さんの品揃え。一期一会。朝にはあったものが、夕方もう一度行くと、もうないこともある。是非、臆せず、お立ち寄りを。

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取材日 INTERVIEW 2018.12.16 ※施設情報、入荷状況や価格は取材時のものです

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