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国の重要有形文化財に指定された漆関連資料や多様な民俗資料に学ぶ

漆掻きや木地挽の道具、古い時代の漆器など、産地ならではの豊富な資料を展示。また原木や実の意外な利用方法を知ることで、素材を無駄なく活用してきた地元の特異な漆文化や歴史にも触れることが出来る。
浄法寺歴史民俗資料館
二戸市浄法寺町御山久保35
0195-38-3464  9:00-16:30
(休:月曜、祝日の翌日、年末年始)
[観覧料]一般 210 円
       小・中・高・大学生 110 円 
http://www.edu.city.ninohe.iwate.jp/~maibun/j-index.htm

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取材日 INTERVIEW 2018.11.8 ※施設情報は取材時のものです

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多数の漆関連資料が並ぶ「浄法寺漆」の産地に佇む資料館

二戸市浄法寺地区にある浄法寺歴史民俗資料館。

漆の産地である浄法寺地区、その天台寺のすぐ近くに位置し、漆や浄法寺の歴史・文化に関する資料を展示している場所。浄法寺の漆を訪ねてくると、外せない場所の1つだ。昭和55年に設立され、建物はその頃のまま。一般のお客さんはもちろん、収蔵庫も含む、膨大な資料を求めて、遠方から研究者の方がやってくることもある。

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多くの漆関連資料がここに所蔵され、そのうちの3,832点が国の重要有形文化財に指定されている。展示されているのはその一部だが、様々な漆関連資料がこれだけ揃う館は日本では他にないという。そして漆の産地で、その資料を見ることに意味があると、スタッフの方は言う。山を見て、川を見て、人を見て、自然を見て、その中で、展示された資料が意味を持つ。

資料のその後ろにあるものを、学ぶことができる

“資料館”と言われると、もしかしたら退屈に思う人もいるかもしれないが、歴史番組や旅行記、一般常識や雑学のメディアが好きな人はいるはず。だったら、ここは本当に面白い。この日は、資料館のスタッフさんに、説明をしていただきながら館内を歩いた。

ウルシの木を掻いて、漆を採取する漆掻きの道具や木地師の道具。今ではもう途絶えてしまったウルシの実の蝋分で作った蝋燭や、樹液を取った後の原木を「アバギ」と呼ばれる漁網の浮きにしていた資料。ウルシの木をあますことなく、日々の生活に活用していた頃の暮らし。

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浄法寺塗の特徴は、その素朴さ、シンプルさ。他の地域のように金箔や蒔絵の装飾などではなく、どうしてシンプルになったのか?そうならざるを得なかったのか?


昔も今も浄法寺の漆器は、毎日の暮らしの中で使うもの。けれど、その作り方は、今と昔ではどう違うのか?見ていると、むくむく疑問が沸いてくる。今まで日常の中で、何気なく見ていたことにも、知らないことがある。

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展示されているものは、どれも貴重な資料ばかり。もともとは地元の旧家や商家で使われ、その後寄贈されたものが多いそう。漆器の産地ならば「古くて珍しい漆器がたくさん残っているのでは?」と思いきや、実はそうでもないらしい。理由はいくつかあるが、産地だからこそ、製品として作られた漆器は外へと出て行ってしまう。地元に残ったものも、長い年月が経つうちには、「骨董品」として首都圏の収集家の手に渡ることも多いそうだ。そうやって全国に散らばった古い浄法寺塗の中には、今となっては地元の人も「見たことがない」というものがあるんだとか。


それから、日常的に使われていた漆器は本当に普段使いだから、悪くなれば処分されてしまう。庶民の暮らしを伝えるものは意外に残りにくいということになる。ここではそういう漆器も収集し、保存している。

別の日にお伺いした時は、かつて北方領土に住んでいた人たちが使っていた漆器のことや、海外に残る漆器のお話しを聞いた。伝統工芸品の海外輸出の話は最近の話題としてよく聞くけれど、漆器はとっくの昔に海を渡っていたらしい。

浄法寺地区を中心とした貴重な民俗資料は、どれも物語が詰まったものばかり

もちろん、資料は漆だけではない。一つ一つ見ていると、民俗資料や先人たちの資料は、不思議に溢れている。

瀬戸内寂聴師が名誉住職をつとめる天台寺の資料。ちょっと珍しい個性的なカミサマ「オシラサマ」や安産を祈願する「子安様」。産婆さんの使う「コナサセ道具」。文字の読めない人も暦がわかるようにと、絵で描かれた「めくら暦」。可愛くて、ユニークな絵柄で、今見てもちょっと楽しい暦。「何だろう…」と思ったのは「捕縄人形」。罪人を捕らえる捕縛の技の見本となる人形なのだそう。

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「歴史的な資料」と聞くともうすでに研究しつくされたことを、ただ聞くように思うかもしれないけれど、それだけでもない。

もちろん、研究がされ、しっかりと歴史がわかっていることもあり、それは今の私たちに繋がっている。


けれど、私たちが生きてはいなかった時代。わかっている部分もあれば、現在進行形で謎の部分もある。まだまだ、研究途中のものもある。だから、面白い。スタッフさんの話を聞いていると、映画を1本見終わったような気もしてくる。それくらい、それぞれの資料に、物語が詰まっている。「事実は小説より奇なり」という言葉が時折浮かんでくる。

どんな方でも、まずはふらっと立ち寄ってもらえれば

とはいえ、スタッフさんは「でも難しいことは考えず、まずはふらっと立ち寄ってもらえれば」と笑う。気軽に来てもらって過ごすうちに、思いがけない発見があるかもしれない。自分の見ている地域が、今までとは違う色で見えるかもしれない。

 

実際、訪れる方も様々な方がいらっしゃるとのこと。漆に興味があって遠方から来る観光客、ふらっと立ち寄る旅の方。スタッフさんも驚くような案件で、問い合わせてくる研究者もいる。

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良くも悪くも、私たちはいろんなことを忘れていく。人も自然も移り変わって、失っていくものがある。それが、悪い時もよい時もある。震災後には「こんな漆器、家にもあったなぁ…」と訪れる方もいたという。ご年配の方が、ここに来ると生き生きと若返ることもある。


忘れられたもの、失われたもの、でも確かにあったもの。それを思い出したり、学びながら、ここにきて、また明日から生きていく。

調査研究や資料館の管理、来訪対応とお忙しそうなスタッフさんだが、「資料のその後ろにあるものを伝えたい」と話して下さった。気になる展示があったら、お声がけをしてみてよいそう。

 

漆の資料を目的にやってくる方も、思いつきで立ち寄ってみた方も、もちろん地元の方も、ぜひ。

 

資料館を出たときには、少しだけ世界が変わっているかもしれない。

取材日 INTERVIEW 2018.11.8 ※施設情報は取材時のものです

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