いつまでも見ていたくなる古民家のミニチュア
里山の原風景のような古民家のミニチュアを製作する作り手。独学で作り始め、本物の茅を使って屋根を作り、井戸や馬屋、家具、室内の灯りまで驚くような細部まで再現され、曲がり屋や水車小屋なども作ってきた。帆船ミニチュアや炭の彫刻など趣味ながらも多彩で見ていて楽しい作品があり、お願いすれば自宅の玄関先で見学が可能。
作品のオーダーメイド製作についても、相談に応じている。
大崎 文雄
0195-42-3884
オオサキ フミオ
取材日 INTERVIEW 2018.11.30 ※施設情報、入荷状況や価格は取材時のものです。
見ているだけで、ワクワクしてくる古民家のミニチュア
「あ、電気ついた!」と思わず叫んでしまう。電気がつくだけではない。部屋の中には、小さな箪笥や囲炉裏、壁にかかる掛け軸。ちゃんと畳も敷かれている。馬小屋には、小さくも立派な馬が鎮座し、水車小屋が動いたときには、「もう1回お願いします」と見せていただく。九戸村で、古民家のミニチュアを製作する大崎文雄さんのご自宅でのことだ。
大崎さんは、材料集めや設計から、ご自分で古民家のミニチュアを製作されている。仕事を退職してから趣味で始めたそうだが、どれも感嘆する作品ばかりだ。ご自宅の玄関先に、作品がずらりと並んでいて、どれも1つとして同じものはない。
箪笥、囲炉裏、畳に掛け軸、灯りに水車で厩には馬がいるという細部の表現
まず、代表的な曲がり屋の古民家。伝統的な民家の建築様式の1つで、人と馬が一緒に暮らす構造になっている。人の暮らす母屋と厩がL字状に繋がっている。屋根は、本物の茅を使って、茅葺屋根を表現している。家の手前には、ちゃんと桶の用意された井戸もある。
もう1つの曲がり屋。これは、なんと、電源につなぐと明かりが灯る。中には、箪笥と囲炉裏がちゃんとある。よく見ると箪笥の上の小物まで。小物もすべて、大崎さんの手作り。
こちらも明かりがつく古民家。しかも、これは厩にちゃんと馬がいる。屋根の部分は2段構造になっており、さらに外の砂利や石は本物。近くで拾って来たものを洗ってそのまま使ったり、砕いて貼り付けている。
こちらの古民家は庭まで表現されたもの。枯れ木も本物。この屋根は木製。丸太から切り出し、木目を強調させるために、間を彫刻刀で削っている。雰囲気があり、見た印象も変わってくる。「節があったり、こぶがあった方が雰囲気もでてくるから」と木材にもこだわる。
古民家それぞれも色合いが異なるのは、仕上げにバーナーで焼いて色を付けているから。
動く古民家のミニチュアもある
そして、これが水車小屋。水車といえば、本来は水をくみ上げたり、そば粉をひいたりと動力源になるもの。これは、「うつ」。横の水車を手動でくるくる回すと、中にある杵がトントンとおりてくる。これも大崎さんが試行錯誤して作ったというから、驚き。
常設で販売や展示はしていないが、近くで噂を聞いた人が訪ねてきたり、人づてで見に来ることがあるそう。必要があれば、希望を聞きながらオーダーも受けていて、贈り物にと頼まれたこともあるそうだ。そもそも古民家のミニチュアを作れる人が多くはないから、「なんとか作れないか」と頼まれる。いろんな出会いがあって、「人に喜んでもらえるのが嬉しい」というのも、作り続けている理由。
茅葺古民家の絵に感動し、設計図をもとに作り始めた
あまりの器用さに、退職したというお仕事も、ものづくりだったのかとお伺いしたが、ご本業は全く違うそうだ。もともとは、絵を描くのが好きで、昔の古民家を描いた画集に出会った。その画集に感動し、これはいいなぁと自分でも描こうと思ったが、さすがにプロのようには描けない。
だったら模型を作ってみることはできないか、ただ、どうやって作ればいいかはよくわからない…と思っていたところ、新聞で岩手県内の茅葺古民家の写真集が発行されたことを知った。そこからが凄い、大崎さん、ご自身で新聞局に問い合わせ。すると、新聞局の方が写真集を発行した方に話を繋いでくれ、その方が古民家の設計図を作成して送ってくれた。
その設計図を参考に、昔の地域の風景も思い出し、試行錯誤しながら今の形ができた。
今も、まず設計図を自分で作るところから始める。何度も失敗して、数年たってようやく人にも見せられるようなものができてきた。遠野や秋田の実際の古民家も見て歩いた。
細かければ細かいほど、古民家の雰囲気がでてくる
夏場は農業で忙しく、製作に没頭するのは、農閑期の冬場。
細かい作業は、ほとんど苦にならないそうだ。むしろ、細かい部分に凝る時の方が楽しいという。
作り方は、まるで本物の家だ。土台を作り、柱を作り、壁を作っていく。接着剤で張り合わせるため、作業しては、乾くのを待ち、また作業して、その繰り返し。奥の間から作り、小物も作りこんでいく。囲炉裏に自在鉤を吊るす時は、天井部分のちょうどいい場所に穴をあけて吊るす。
床の間がちゃんとある古民家もある。床の間の作りだけでは、格好がつかないからと、掛け軸もさげた。
こだわりは、「細かければ細かいほど、古民家の雰囲気がでてくる」だ。1つ1つの作業を大崎さんが説明してくれるのだが、気が遠くなるような細かい作業もある。
けれど、大崎さんは「興味がある人だったら、誰でも作れる」と笑って言う。興味があれば、一度手掛けたものを途中でやめたくはなくなるから、どんな格好でも出来上がる。それを繰り返せば、うまくなる。
材料は基本的にご自身で集めてくる。屋根の茅部分も、試行錯誤しながら細部まで隙間なく茅を差し込んでいる。ちなみに地域で、小さな茅葺小屋を作る時にも、茅葺の作業ができる人があまりいないと、地域の人と一緒に小屋づくりをしたそうだ。ミニチュアに留まらない技術力だ。
古民家の砂利は、砕いて細かくした本物の石を、全体的にいい色合いになるように選んで並べている。古民家などの台座になっている立派な木も、森で大崎さんが見つけてきたものだ。
作業場所をふっと見回すと、箒や蓑もある。これも大崎さんが作ったもの。箒の作り方は、同じ九戸村の高倉工芸さんに、少し教えてもらったそうだ。
しかも、大崎さんの作品は、古民家に留まらない。まずは、木炭工芸。岩手の県北は炭の産地。九戸村も炭の生産は盛んで、大崎さんは近所から炭を仕入れてくる。それを、まるで彫刻のように削り、形を作る。一番人気は、このSL機関車。
彫刻みたい、と言っても堅さのある木材などと違い、炭は割れやすい。割れにくい朴の木の炭を手に入れているが、それでも、細工が細かくなれば細かくなるほど、割れないようにするのが大変。ナイフで削り、サンドペーパーで滑らかにする。だから、見ていると、触りたくなってくるような滑らかな炭肌。
こちらは帆船。帆船は最近になって、作るようになったもの。船の形は、どれも少しずつ異なる。
竹のペン立ても得意で、すぐに出来るから、と作り方を見せていただいた。トンボの細工が見ていて楽しい、立体感のあるペン立て。細い竹をすっ、すっと整えて、組み合わせていくと、あっという間にトンボが生まれた。見ると、なんだか懐かしい。
他にも素敵な絵の描かれたヒョウタンや、木を彫って描かれた龍、木の皮で作ったふくろう。「家族が喜ぶ」とフェルト作品まで出てくるから、大崎さんの熱意はどこまでも広い。後日、伺ったときにも、「これが、この冬の最後の作品かな」と新しい木彫りの作品ができていた。絵を描く想像力と、実際の動植物を観察する観察眼と、大崎さんはどちらも持っている。
作品を見たい際は、必ず事前にお電話でご連絡の上、訪れてみてください。どこかに広告を出しているわけではないので、「クラフトマップの記事を見たので」と一言付け加えた方が、話は通りやすいかも。古民家ミニチュアのオーダーを考えている方も、まずは見学からぜひ。古民家ミニチュアのオーダーは、数万円~だが、その他の作品についても興味がある場合は、ご相談OK。古民家のミニチュアの世界に入り込むことが出来る。
取材日 INTERVIEW 2018.11.30 ※施設情報、入荷状況や価格は取材時のものです。