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布と糸が織りなす、暮らしを彩る古くて新しい世界

古くなった布を裂き、糸で織りこんで新たな布に再び仕上げる裂織。糸や布の色ひとつで色合いが全く異なる模様に変化する。バッグ、ポーチ、携帯ケース、クッション等、大小様々な作品を製作しており、スリッパは足元が暖かいと人気。工房で織機も製作している。
裂織工房
いちのへ手技工芸館内 一戸町一戸字越田橋11-1
平日:0195-33-2111 土・日曜:0195-33-3993
土日のみ営業 10:00-16:00 (事前予約で平日も営業)
※臨時休館有

サキオリコウボウ

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取材日 INTERVIEW 2018.11.11 ※施設情報、入荷状況や価格は取材時のものです

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浴衣や布団など古くなった布を細かく裂き、風合いのある布に織りあげる技術

裂織とは、綿や絹などの古い布を細く裂き、それを横糸にして織り込み、新たな布に再生させる技術のこと。貴重だった木綿を大事にし、最後まで丁寧に使う昔からの手仕事。一般的な家庭の、日々の暮らしの中で、育まれてきた技術だが、今では、東北の代表的な伝統工芸品のひとつとなっている。その裂織を製作し、見学・体験・作品購入できるのが、一戸町にある「いちのへ手技工芸館」内の裂織工房だ。

いちのへ手技工芸館の入り口を入ると、すぐ左手に裂織工房。

 

透明な扉越しに、賑やかな工房の中が見える。手技工芸館が開館する週末は、ほぼ誰かがここで織りをしている。体験は予約が必要だが、見学はいつでもどうぞ、とのこと。織りに打ち込む姿に、ちょっと声をかけるのは緊張するかもしれないけれど、気軽に中を見せて下さるので、とんとんと扉をたたいてみて。取材スタッフも、ちょっぴり緊張しながら、こんにちは、と中へ。

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取材対応してくださったのは、山井木工でもご取材をさせていただいた山井静子(やまい せいこ)さんと、作山(さくやま)さん。工房で中心的に作品の製作を続けるお二方だ。工房は、製作現場でもあり、裂織を学びたい人が通う教室でもある。もともとは、一戸紬まゆ玉会の赤屋敷タマさんが、ここで織りを行い、教えられていた。今は、静子さんと作山さんが中心に、教えながら、赤屋敷さんから学ぶという。

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バッグ、ポーチ、スリッパ、クッションetc…デザインはお客さんからヒントを得る

裂織の作品は、2階の展示室で販売。製品は、多種多様。古布を再利用するため、基本的にどれも一点もの。一期一会の出会いだ。軽さも裂織の魅力の1つ、重さや使いやすさにも気を配りながら、デザインは考えるそうだ。裏地も、裂織には向かない着物の生地等を活用するため、ポーチやバッグの中などもしっかりしている。
目を引くのは、手提げバッグ。大小様々。

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大物では、クッションがお洒落。足元を彩るスリッパも可愛い。スリッパは、冬でも足元が暖かいと人気があるそうだ。さっとなら、洗うこともできる。

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これは、背負いかごの紐。丈夫で、風合いもお洒落。取材時は、ちょうど注文も入っていたところだった。

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小物は、ポーチ、小銭入れ、ブックカバー、名刺入れ、ランチョンマット、携帯ケースなど、その時々によってラインナップが異なる。どういうデザインにするか、どういうサイズにするかは、お客さんの反応を見たり、意見を取り入れることが多い。

手技工芸館として関東や都市部のイベントに出店することも多い。地元とは、お客さんの感覚も異なる。男性でもショルダーバッグなどを購入するし、色も明るい色やはっきりとした色が好まれることが多い。「販売にいかないとだめですね。お客さんの要望を聞きながら、じゃあこういうのどうですかね、と進めていった方が、お客さんの要望に応えられる。勉強になりますね」。岩手県内では、落ち着いた色合いの作品が好まれる。県外のイベントで、お客さんにオレンジ色のものが欲しいと言われて、そんな明るい色が欲しいと言われることなど予想もしなかった、と驚いたこともある。

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体験もあれば、長期的に習う方も。本格的な織り機も購入できる工房

工房内の体験は、全くの初心者でもOK。作品を作るというよりは、本当に織りを試してみたい方だと短時間。小さめの布やコースターなどを作る場合は、1~2時間くらい。中には1日体験していく人も。作るものによって、体験料は変わるため、電話でご相談を。長期的に習うこともできるので、希望の方は、まずは、お試し体験をしてみて。女性だけではなく、男性で習う方もいる。


遠方から通い、ある程度作品が作れるようになると、卒業して、地元で製作を続ける人もいる。その際は、織り機も購入することが可能。工房内と同じく、山井木工さんが製作してくれる織り機だ。サイズは今の家にも入るような小さめのものもあれば、工房と同じサイズのものもある。織り機の手配まで、工房内でできるというのが、人気の1つでもある。

作山さんに教えていただき、取材スタッフも少し体験。最初は足と手を間違わないように動かすので精いっぱいだが、慣れてくると、とんとんと音を立てながら、布が出来上がっていくのが面白い。

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緯糸は、縫い目をほぐし、洗い、裂いて、使えるものにしていく

製作は、まず緯糸(よこいと)を準備することから始まる。着なくなった浴衣や家庭で使われていた布製品を、縫い目をほぐし、洗い、必要ならアイロンをかけ、裂いて使う。使える布にするには、けっこうな手間がかかる。裂織工房の話を聞いて、「おめだち(あんた達)、これいる?って持ち込んでくれるんですよ。整理して捨てたいんだけどって」。生地を持ち込んでくれる人が多く、あまり生地に困ることはないそうだ。しまい込んでいた古布は、いいものが多い。今の生地よりも、裂織に生かせるものが多いという。親のものを、兄弟で思い出に残したいと相談されて、兄弟分を製作したこともある。「まだ私たちの親の世代って、普段で着物着ている人がけっこういたんですよね。その頃の着物は、けっこういいんですよ」。昔の布団皮も模様や色が鮮やかで、面白いものができる。

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最終的なデザインを考えながら、複雑な経糸を張る

次は、経糸(たていと)を張る。昔は、経糸は無地、緯糸(よこいと)の古布で模様をつけるのが主流だったが、今は、縦糸の色の違いでも模様を出す。実際に織ってみないと、本当にどんな色になるかわ、分からない。けれど、それを考えながら、糸を張る。

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経糸を張ること自体も、技が必要な作業だ。こちらは、経糸を張る「最新型」の整経機。どう張るのか教えていただくのだが、取材スタッフの頭がついていかず。なかなかに複雑な作業。最初の頃は経糸を張れない人が多く、静子さんが張ってあげることもある。
従来型と異なり、作業が楽になり、経糸が緩まないように、びしっと張ることができる。模様はもちろんだが、作る作品によっても、張り方は異なる。図面のように、張り方を計算してからやることもあるという。

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こちらは、従来型の整経台。完全に手で張るため、なかなか難しい。ただ、「最新型」の方は、まだ値段がはることもあり、これで経糸を張る方ももちろんいらっしゃる。これで糸を張り、それを織り機に仕掛けていく。

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織物、というと、実際に織り機で織っている姿が印象に残るが、この経糸をうまく張らなければ、綺麗な織物はできない。「ここがなかなか大変なとこですよ」と作山さんも笑う。取材時に作山さんが製作されていたのは、チェック柄。経糸もカラフルなため、糸を何度も考えながら、変え、大変だったという。

経糸を張り、ようやく裂いた布を緯糸に織っていく。そこも、また技。素人から始めて、自分で経糸を張り、緯糸を準備して織ることができるようになるまで、2年はかかるという。というか、2年で早い方。けれど、それでも遠く沿岸部や盛岡から習いに来る方もいる。織り機を青森の大間まで届けたこともある。静子さんたちが驚くほどだが、「今はもう自由ですよ」と言う。自分の住んでいる場所から遠く離れてでもやってくるような意欲のある人たちと接することは、勉強にもなる。

 

同じ経糸でも、緯糸が違えば、全く別の仕上がりになる。これは、そうしたもの。「どうやって出てくるかな」と考えながら、糸をそれぞれ張っていく。だから、難しいのは「デザイン」と静子さんは言う。

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赤屋敷タマさんから始まった裂織工房が、今も続いている

静子さんが、裂織に関わり始めたのは、山井木工の代表・進さんが織り機に興味を持ったのが、始まりだった。赤屋敷さんに頼まれて、織り機の不調を直しているうちに、織り機そのものを作ってみないかという話になった。それから、もう30台以上の織り機が、織り手の手に渡った。静子さんご自身も、織り機を作るうち、自身も裂織を赤屋敷さんに習うように。赤屋敷さんが教えられない技術は、他の先生を紹介してくれ、少しずつ技術を向上させてきた。

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今では、自分が先生役を務め、裂織だけではなく、赤屋敷さんに分けていただいた天蚕の糸で布も織る。ただ、まだまだ赤屋敷さんと同じように製作できる方はいないという。「赤屋敷さんは(私たちより)もっと高度なものを作るんです。組織織(そしきおり)っていう高度な織り方なんですけど。裂織と織り機は一緒だけれども、織り機に足(ペダル)が6本付いていればそれを全部使う。羽も裂織は2枚しか使わないけど、4枚使うとか。もっと高度になれば、6枚、8枚とかもあるらしいですけど、まだ私たちは4枚ですね」。藍などで染めた天蚕の糸を赤屋敷さんが工房に持ってきてくださる。「糸をほいほいって持ってくるんですよ。そうすると、それをどうしろ、とも言わないんです(笑)。持ってきて置いとくんですよ。で、これをどうするかって悩むんです」と笑う。何をやるかは本を見ながら決めるそうだが、参考にするのは海外の織り方の本。言葉は読めない中、本当に試行錯誤だ。

 

静子さんも、裂織でも、天蚕の糸でも、販売もできるような作品を製作できるようになるには10年かかったという。平日は木工屋さん、週末は工房で製作を続ける。目の回るような忙しさだ。

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作山さんは、仕事を辞めてからも続けられるような趣味を、と裂織を始められた。驚くことに、今、工房で作る手提げバッグは、ほとんどが作山さんのものだ。自分が織った布に限らず、工房の他の方や赤屋敷さんの織った布も、作山さんがバッグに仕上げる。知人に作り方を習い、少しずつ上達してきたという。イベントが近くなると、週末は工房で織り、平日は家でバッグを作ることも。織るのと同じくらい、バッグを作る仕事も多くて、焦る程だという。

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この日は、他にも長年製作をされている方がもうお一方。盛岡の工房とも付き合いがあり、その関係で頼まれて、3人それぞれ20メートルずつの長い裂き織り布を織ったこともある。

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裂織は、見ていると本当に不思議だ。古い布が、その風合いを生かしたまま、一番新しいものへと生まれ変わる。シンプルに見えて、織りの複雑さに驚く。布一つ、糸一つで、全く異なるものが生まれる。取材の間も、誰かの織り機の音がとんとんと鳴っていた。

週末は、裂織工房へ。古くて、新しい世界が生まれる瞬間を、ぜひ見てみて。

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取材日 INTERVIEW 2018.11.11 ※施設情報、入荷状況や価格は取材時のものです

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