使って心地よい藁細工や箒の作り手
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縁起がよく可愛い亀の飾り物や、スリッパにも負けない履き心地の草履、手提げかごなどを藁や自然素材で製作している作り手さん。子どもの頃につまご(藁靴)などを作っていた記憶を辿りつつ、現代でも使いやすいように、試行錯誤を重ねて作り続けてきた。布草履や自らホウキモロコシを栽培した部屋用の箒、庭帚など作品の幅は広い。
平 春治
タイラ ハルジ
取材日 INTERVIEW 2019.1.15&2018.11.24 ※施設情報、入荷状況や価格は取材時のものです。
草履や草鞋、つまご、えんつこ、座布団、しめ縄、亀の飾り、手提げかご、
箒などなどを自然素材で
「藁細工」と言えば、ほんのひと昔前までは、工芸品や手仕事、と呼ばれることもなく、本当に日常の中での生活道具だった。と、手仕事について聞いて回っていると、よく言われる。昔は作っていたよ、という方もいる。軽米町に住む平春治さんもその一人だ。ただ、春治さんは、それを今も作り続けている。取材時には86歳。そういう方は、今では珍しい。
春治さんが使う素材は、藁を中心に、自然の草やホウキモロコシ、最近では、布や市販の紐のこともある。人によく頼まれるのは、藁草履(わらぞうり)。「靴じゃなくて草履はいている人いるの?」とも思う方もいらっしゃるかもしれないが、家の中でスリッパ代わりに使う方が、多いらしい。本当にスリッパのような形を藁で編む「すんべ」もあるが、草履も冬でも暖かく、脱げにくい。足の指の間や足裏を刺激するからいいのだ、という方も。もちろん土地のお祭りや踊りで使うという人もお願いに来る。
草履の作り手も減り、「春治さんのじゃないと、具合が良くない」とわざわざ来る方もいるそうだ。春治さんの作る草履は、しっかり編んであるから、崩れにくい。「作るんだったら、いいものを綺麗に作りたい」という想いの表れ。
作品は、多様。草履(ぞうり)や草鞋(わらじ)、つまご(藁の冬靴)、えんつこ(藁で編んだゆりかご)、座布団、しめ縄などの正月飾り、亀の飾り物などなど。自然の草を使った「手提げかご」や、ホウキモロコシで作る箒。庭帚も作る。えんつこは、応用して猫の家を作ったこともある。作るだけではなく、地域で藁細工を教えたこともある。地域のイベントやなにゃーと物産センターでも作品は販売する。
80歳を過ぎて、体験教室など大勢に教えることは控えるようになったが、二戸市のなにゃーと物産センターで毎年開催されている「手仕事展」には、いつも出店している。草履の実演も行うので、春治さんのところは、いつも人で賑わう。2018年の手仕事展でも、そう。
去年くらいまで、人気は箒。今年は、時期がら、しめ縄がよく売れたらしい。珍しい亀の飾りや草履も人気があって、亀の飾りは、工芸品の専門店に出したこともある。
実演したのは、布草履。
ご夫婦で出店されており、布で編むときは、奥様が布を準備している。夫婦で作る作品でもある。
お客さんや同じ出店者とも、話すのは好きだそうだ。何からできるのか、どう作られているのか、説明しないとお客さんは買ってはくれない。若い頃にやっていた山仕事の関係で、木工や山の自然素材に平さんは詳しい。イベントで、たまたま作り手さんが来場せずに、販売していた品を、近くにいた春治さんが説明してあげたこともあるという。どの素材も、春治さんには昔から見慣れたものだ。
手仕事展で出店されていたのは、「えんつこ(ゆりかご)」だったが、後日、その技術を応用した「猫ちぐら」を作られていた。猫ちぐらは、通気性がよく、夏は涼しく、冬は暖かい、藁で作る猫のお家。全国的なブームがあり、数年待ちの工房もあったらしい。確かにかなりの量の藁束を隙間なく、編まれていて、製作時間も1週間以上かかるそうだ。
平さんが作る猫ちぐらは、4匹くらいは入ることのできそうな大きなもの。しっかり編まれているので、叩くと、トントンと音がするくらい、かなり、がっちりしている。
心地よさそうで、猫ではなくて、入れるものなら、人が入りたい。
次の手仕事展には、出せたらと準備中だそう。興味のある方は、是非お問い合わせを。
仕事は段取り七分、大変なのは使える藁の選定や準備
別日に、ご自宅で、草履を作る作業を見せていただいた。
「編むのは、誰でも覚えられるし、慣れ腕があがれば時間もかけずにできるんだけどな。藁を準備するのが、なかなかできないのよ」。
稲刈りの時期に、その年に作れるだけの藁をちゃんと譲ってもらい、残しておくところから始まる。それを、腐らないように保管。大事なのは、選別で、節がなく、綺麗で、腐っておらず、作るもののサイズにちょうどよいものを選ぶ。節があると、折れやすくなる。まだ草履などは、ある程度の束でまとめて使うが、亀の飾りを作るときは、本当に1本1本選定をする。編む前日には、いい具合に湿らせておく。そして、柔らかくするために藁を打つ。そうして、ようやく編むことが出来る。仕事は段取り七分だから、と。「若い頃は、ストーブもつけずに編んでたよ」。さすがに今は、ストーブを横に編んでいるが、藁の渇きが早いので、霧吹きなどで調整する。
「何にも忘れて、これに夢中になっている時間が楽しい。時間なんて、すぐに過ぎていく」。見ている方も、するすると動く指先を見ているだけでも面白い。草履は、履いている途中でほどけてしまっては意味がないから、とにかくぎっちりと編む。足の形に沿って編む、というよりは、ちゃんとした手順できつく編んでいくと、不思議とすーっと綺麗に足の形になっている。
始まりは、作らないとどこにも歩いて行けなかった「つまご(冬靴)」作りから
春治さんは、藁細工をどこかで習ったわけではない。
夏は農業、冬は炭焼きをしていた父親が、冬には「つまご」(藁の冬靴)を履いていた。山で1日歩けば数日で駄目になる。家の中に、何足も「つまご」が並んでいた。春治さん自身も「つまご」作りを手伝い、1足作り上げないと、夜寝られない日もあった。父親が作るのを、見様見真似で覚え、自分が学校に履いていくための「つまご」も作った。「靴買うお金もねがったから」と笑う。春治さん自身が、外に仕事に出て、作ることもなくなったが、やがて年齢を重ねるうちに、小さな頃を思い出して、また作り始めた。
若い頃からとにかく、いろんな種類の仕事をしたと春治さんは、笑う。
山仕事や林業系の仕事が多かったそうだが、ホテル勤めをしていた頃に、中のお店で「つまご」を販売したこともある。それは奥様も同じで、まだ、お子さんが小さい頃に一時期、酪農をしていたことも。牛の世話をして、赤ん坊と牛乳を背負って、働いていたという。苦労話よりも、その中でおもしろおかしかったことを、二人で笑いながら話してくれる。
笑って話せないような苦労話が、その裏に隠れているけれど、それはなかなか見えない。
春治さんが脳梗塞になったこともあるそうだが、リハビリがてら、藁細工をやっていた。昔は必然性からやっていた藁細工が、今は日々の楽しみ。「これでいいな」と思う日はない。まだまだよくできると思うし、どっか失敗していることも多いという。「100%満足ああ、よかったな」っていうのは、まずない。
最初は、草履2足作るのにも一苦労
草履を本格的に作り始めたのは、学芸会で子どもが履く草履を作ってくれないかとお願いされたことから。小さい頃に家族が作るのを見ていて、何となくは知っていたが、2足作るのに、1週間ほど、練習した。今では難なくこなす実演も、初めてイベントでお願いされたときは、たくさんの人が見ている前で、緊張もして、道具一つ使うのにも頭がこんがらがって大変だったと笑う。布草履も、地域の人から頼まれたのが始まり。春治さんが、藁でいろいろなものを作っていると知った方が、布で作れないか、と布を持ち込んでこられた。
最初はどれもそうだ。何回も、こうやればいいのか、ああすればいいのかと試行錯誤の繰り返し。しめ縄も最初は、苦労して1日1個作っても、格好が悪い。何度もやっているうちに、1日に4つも5つもいいものができるようになった。
ちなみに、この縄を「よる」という作業。熟練者はするするとやるのだが、初心者はどう頑張ってもバラバラの藁が縄状になってくれない。掌そのものに違いがあるんじゃないかと思うくらい、差が出る。
箒作りは、とび職の知恵をヒントに
箒は、ホウキモロコシを育てて作っている。作り始めたのは、仕事を引退した66歳頃から。軽米町でも、昔は各家で巳帚などを作っていたので、作り方は、小さい頃に見ていたものを思い出しながら。ただ、自分では作ったことがなく、実際の縛り方や柄の模様は、実物を研究したり、試行錯誤しながら昔のものよりも長くちゃんと使えるように、作ってきた。
箒は、きつく束ねて使っていても緩まず抜けないようにするのが、難しい。とび職の「真似事をしていた」という頃に、ワイヤーをきつく縛っていたのを応用した。最初に箒を作品として地域のイベントに出した頃は、緊張したという。見に来た人に「あれ、これ、裏の編んだとこと、表の編んだとこと違うんでねぇか」なんて言われて冷や汗をかいたのも、今は笑い話。材料は変わるが、立派な庭帚も好評だそう。
大勢に教えるのは難しいけれど、作り方を教えて欲しい人は、イベントで見かけたら、気軽に声をかけて、という。実際に、イベントで出会ってえんつこの作り方を教えて欲しい、という方に教えたこともあるそうだ。作品の問合せは、なにゃーと物産センターからもできる。
春治さんの人生が詰まった藁細工。もし出会えたら、ぜひ一期一会と思って手に取ってもらえれば。草鞋も草履も、きっと、どこへでも歩いて行ける。
取材日 INTERVIEW 2019.1.15&2018.11.24 ※施設情報、入荷状況や価格は取材時のものです。