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サルナシの木から作るニギョウ箕の数少ない作り手

穀物をふるい、殻や塵をふりわける農具の作り手。一戸町の面岸地区で製作され、サルナシの木の皮を縦、柳や桜の皮を横に編みこむ。民藝としての評価も高く、末広がりの特徴的な形はインテリアにも美しい。同素材で手提げかごも製作中。
戸部 定美
 
[取扱先]なにゃーと物産センター、里やま市場
[オーダー等問合せ] 0195-34-2130
         または取扱店を通して可

トベ サダミ

取材日 INTERVIEW 2018.10.18 ※施設情報、入荷状況や価格は取材時のものです

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米や蕎麦、雑穀など穀物をふるい、籾殻や藁くずを吹き飛ばす昔からの農具

「ミ」と言われて、「箕」とすぐに変換できた方、挙手!静かに手を下げた方、取材スタッフも恥ずかしながら、最初はそうでした。「箕」は、米や蕎麦、雑穀など穀物をふるい、籾殻や藁くずを風で吹き飛ばし、食べる部分の「実」を残す昔からの農具。綺麗に編まれているものは、中の穀物を傷つけにくい。現代の農作業現場では、あまり目にすることのない、けれど、穀物の生産では避けて通れない過程の道具。

この地域で、「箕」と言うと、「あ、面岸の方で作ってる」と言葉が続く人が多い。一戸町の面岸は、昔から箕の産地。現在でも民藝品としての評価は高く、日本民藝館展では、最高賞を獲った作り手もいた。その箕を、今、一戸町の面岸地区で作っている戸部定美さん。地元では有名人だ。一戸町でも山奥深い「面岸」に住む「箕」の数少ない作り手で、メディアへの露出も多い。とにかく勉強熱心で、気さくで面白い人柄だと、皆が言う。

 

取材日、戸部さんは、自宅で「よっ」と手を挙げて待っていてくれた。一本道だから迷わない、と言われた道で迷い、車のナビは役に立たず、民家を回り、道端でおばあちゃんに道を聞きながら辿り着いた私たちを。

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サルナシの木を主に、サクラやヤナギなどを合わせて編む「ニギョウ箕」

暖かい時期の仕事場は、家の縁側。縁側には、綺麗に木の皮が並んでいた。
竹などで作られることも多い箕だが、戸部さんの作る箕は、サルナシの木の皮を主に使う。サルナシは、この地域では「ニギョウ」と呼ばれ、だから「ニギョウ箕」。サルナシを縦、サクラ・ヤナギ・クルミ・アカシアなど色合いの異なる木の皮を横に編んでデザインを変える。九州や他の地域にも、箕の作り手はいるが、サルナシは珍しい。

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箕を使う人は減ったが、もともと物を入れて運ぶこともできるため、整理かごやインテリア、ディスプレイ用に購入していく人が今は多い。地元の産直や店舗に出すほか、県内外の民芸品店にも作品を置いている。サイズは様々で、価格は、小さいサイズで1万2000円くらいから。オーダーを受けての製作も行っている。馬蹄型に丸く編む、ざる箕を作ることもある。

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また、最近、力を入れているのが、同じくサルナシで作る手提げかご。箕の編み方を応用し、手持ちの部分などにも工夫を凝らしている。

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木の皮を削り、準備をするまでが一番大変で、作り手が少ない

取材日は、編むためのサルナシの木の皮を準備している作業を見せていただいた。
「削ったものを編むのは数日でできる。ここまで準備するのが一番大変」。編むのはできても、ここまで材料をきちんと準備できないから、作り手が少ない。縁側に並んだ木の皮こそが、職人技だ。


戸部さんは、春頃、山に入り、自らサルナシの木に登り、材料を採ってくる。節がないよう木の上部のものを採るため。木の樹齢は若すぎても、古すぎてもいけない。戸部さんの家も山の中にある。どこに、どんな木があるかはよく知っているし、普段から山の様子には敏感だ。


採ってきた木を、まずドラム缶で煮て、バリバリとした表皮をはがす。一度に数百本煮ることもある。「上手に煮ると、(はがれて)ツルツルした木肌が出てくる。上手に煮ないと塩梅が悪い。はがれなくて、(無理矢理に)削いだりすると外皮まで悪くするから駄目。だから大変なのよ」。そうすると手触りもつるつるした木になる。屋根裏を見上げると、つるつるとした何百本のサルナシの木が並んでいる。
「どれくらい煮るんですか?」と真剣に聞いたら、「それは秘密、そこが難しいとこ」と戸部さんは笑った。父親が作るのを見て覚え、戸部さんが試行錯誤してきた大事な秘密。

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木の種類が変われば、下準備のやり方も変わる。

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これを乾燥させて保存しておき、使うときには、まず割る。作る箕のサイズによって、4ツや8ツに割り、水に漬ける。少し柔らかくなったところで、これを削る。どれも均等に、薄くなるように削る。戸部さんの手先は、あるべき姿が見えていて、迷いがない。
見ている側は、どこをどう削るといいかもわからないけれど、気づけば薄く、真っすぐな1本の紐のようになる。編み目も綺麗に出来る。

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戸部さんの家は山に囲まれ、裏には畑がある。サルナシを漬けておく水も井戸水で、綺麗な山の水がいつも流れている。日差しにあまり当ててもよくなく、水が温くなる水道水もよくない。辺境地だという人もいれば、映画みたいな世界だ、と言う人もいる。山の恵みが、豊富な土地だ。

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実際に編む作業の時には、また少し湿らせて、柔らかくしておく。箕の最終的な枠は竹だが、編むときには、また別の木をしならせて枠にし、そこへ原料をぴんと張って編む。この形を作る木も、今回見せていただいたのはムラサキシキブの木。探してくるのは、なかなか大変だそう。編むときに弛んでしまってはいい箕が作れないので、この木も重要。

 

差し色のように、濃い色の皮を混ぜたり、模様のように編み込んだりと、戸部さんの箕は、デザイン性もある。

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かつては、門外不出の技だった箕づくり

戸部さんが、一番、最初に箕を作ったのは20歳になる前。その時は、イタヤカエデで箕を編んだ。誰かに教えられたことは一度もない。父親が作っていた作業を見て覚え、何気ない普段の会話の中から学んだ。


昔、面岸地区では、ほとんどの家が箕を作っていたそう。大事な収入源で、面岸をはじめとした周辺の地域以外に、作り方を教えることはなかった。家を継ぐ長男以外には教えない、という頃もあった。夏は畑で、冬は箕づくり。戸部さんも、時期には父親が大きな箕を10枚背負って、少なくとも月に2回は町まで歩いて売りに行っていたのを覚えているという。帰ってくるときには、売ったお金で靴などの生活用品を買ってきてくれた。
その頃の農家はどこも、箕を使っていて、今でもこれじゃないと具合が悪い、という人もいる。

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これは、父親の作った箕。

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そのあとは、地域の外で長く仕事をし、また戻ってきてから箕を作り始めた。山に入り、珍しい種類の木を見つけたり、材料に使えそうな木を見つけるうちに、いろいろ作り始め、箕も作るようになった。「最初は下手だったよ」と笑う。地域で箕を作り続けている人は、今は戸部さん以外にはほとんどいない。
「自分一人だったら、(箕を作るのも)怠けてた。子どもがいて、賑やかで、箕が売れたら皆で分け合って。昔の自分の家もそうだった。大変だけどな、子ども助けて、子どもに助けられて。人生うまいことそうなってるんかな」
作業場には、家族の写真や子どもの描いた箕の自由研究なども貼ってある。皆で分け合う。それが人生の楽しみ。この地域、昔は、稲作に適した土地ではなく、稗や粟を食べていた家も多い。戸部さんの家もそう。粟餅を弁当に学校に持っていくのは、少し恥ずかしかったという。生きていくために、畑仕事に忙しく、箕づくりも夜までやった。その頃を思い出せば、今の日々の生活を怠けてはいられない。「昔の頃を思えば、なんだってできるんだから」。今は、やることがたくさんで時間が足りない。

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いろんな人と喋って、そこからチャンスが生まれる。人とぶつかって、人と話して、そうしているうちに喜びもある。

地域のイベントへも出店しており、実演なども披露する。イベントでは、お客さんとよく話し、他作品を見たりと精力的に動く。今回、民藝の本にも載るような職人さんだと緊張していた取材スタッフにも、いろいろな話をしてくださった。自分でお店に営業することもある。
「いろんな人と喋って、そこからチャンスが生まれる。人とぶつかって、人と話して、そうしているうちに喜びもある。チャンスは、自分で作っていかないといけない。人と話をしなきゃいけない。話するのが面白い」。昔は、そんなに話す方ではなかったのに、話さないと売れないから、と笑って言う戸部さんの「昔」は、ちょっと想像がしにくい。


サルナシの木で編んだ手提げかごも、そんな中で作り始めた。箕の需要は、どうしても下がるが、自然素材を編んだかごは工芸品として需要があると見込んだ。まだまだ、これからだと言いながら、試行錯誤に余念がない。いろいろなものを作るのは、楽しいという。

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サルナシの木を山に入って、採りに行ける限りは作り続けたい、という。遠方から箕づくりを習いたいとやってきて、住んでいる人もいる。
戸部さんの作品に興味のある方は、なにゃーと物産センターや里やま市場で手に取るか、地域のイベントで見つけるか。イベントで見つけたら、ぜひお話も一緒に聞いてみると楽しいはず。だいたいの欲しいサイズ感がもう決まっている人や、遠方の方からは電話でのオーダーも受付いているそう。手提げかごのオーダーもOK。

山の恵みが詰まった戸部さんの箕。そのお人柄も一緒に、魅力が詰まった箕、命の源でもある穀物をふるう箕は、どんな形であっても、きっと生活の大事な一部になる。

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取材日 INTERVIEW 2018.10.18 ※施設情報、入荷状況や価格は取材時のものです

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